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執筆者の写真黒子 花

『若いうちに……とは、なんの言い換えか』


「若いうちに何でもやっておけ」


 10代や20代の頃に、大人たちにさんざん言われたことだ。

 当時、個性が重んじられ始めた頃で、インターネットが隆盛。なにに才能があるかわからなくなった時代でもある。


 ほんのちょっとしたことでも発信できるようになると、周りも変わり、時代も変わっていった。


 40代が見え、人生の折り返し地点が見えてきて、改めて思うと「若いうちに……」というのは、自分たち言っているのではないか。


 もちろん、身体が動かなくなったり、毎日、どこかしら痛みを覚えながら起き上がるようになると、身体的に出来ないことというのが出てくる。アクティブに動くなら、翌日、翌々日まで考えて動かないと、もしかしたら筋肉痛が回復せずに仕事をする羽目になるかもしれないという予測も経つようになってくる。


 本来であれば、いかに回復するかを考える時期にありながら、なぜか無理なスケジュール、気になるコンテンツ、見ておきたい映画、本、漫画、ドラマが大量にあり、時間が間に合わない。20代と同じように詰め込まなければ、どんどん時代に置いていかれてしまう。

 中年になると、日々の焦燥感で勝手に自分を追い込みがちだ。


 ここで「若いうちに何でもやっておけ」が出てくる。

 人生で最も若いのは、今現在だ。

 だから、やりたかったことを今すぐやるべきだ。だいたい、いろんな自己啓発本に書いてあることだ。


 20代のころ思い描いていたような大人になれているだろうか。ほとんどの大人が大谷翔平ではないので、夢描いていたような自分の位置にいないのではないか。


 実は20代の頃、筆者はこの「なりたい自分」というのに疑問を持っていた。

 イチローがいて中田英寿がいた時代だ。室伏広治は叫んでいた。結果を残している人たちは、果たしてどうなりたいのか考えながら生活をしていたのか。

 むしろ目の前のことをやり続けること、自分にミッションを与えて、行動していたのではないか。


 20代の頃の頭の中では、いろんな欲が渦巻いている。

 モテる自分を想像するよりも、モテるためには法則があるのか知りたかった。

 金持ちの自分を想像するよりも、金持ちになるためにはどんなルートがあるのか知りたかった。

 称賛される自分を想像するよりも、人はなぜ心を揺すぶられ行動するのかを知りたかった。


 若い頃は何も知らなかった。とにかく動くことが重要で、体験し経験することでトライ&エラーを繰り返していた。


 そのうちにいつか成功する。

 ヒットが打てるようになる。

 やり方がわかってしまう。


 ここに中年が嵌る落とし穴がある。


 失敗しなくていい。現状を維持すれば、なんの挑戦もしなくても、なりたい自分になっているのだからポジションを変える必要はない。


 成功は確率論になり、なんど失敗できるかの体力勝負であることに気づいているのに、今のポジションを維持することに動いてしまう。

 その場に根を張ってしまい、トライ&エラーができなくなる。


 本当は、気づいている。

「若いうちに何でもやっておけ」は自分に対する励ましになっていることを。

 動けない自分への叱咤激励だ。


 中年になり、いい加減、自分の能力や作業量を終わりから計算できるようになってくると、自分の裁量を低く見積もってしまう。挑戦できるうちに、自分の可能性を広げておかないと小さくまとまった人生で終わってしまうことが目に見えている。


 日本経済は30年成長しなかった。

 わかったのは、数字上の成長と、時代に合わせられる変化率には相関関係があることくらいだろうか。


 「見る前に飛べ」とは大江健三郎の小説だったろうか。

 経験をたっぷりしてきた大人は「見てから飛べること」しかなくなってくる。人生で背負ってしまった荷物も多い。今動けないと、どんどん荷物は多くなる。


 全く別のジャンルに飛ぶなら、飛べるうちに飛んでおけ。


「若いうちに何でもやっておけ」は若い人たちへの励ましではあるが、未だ挑戦を続ける同世代に向けての激励だったのではないか。

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