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執筆者の写真黒子 花

まだ先の話だが、これも『駆除人(原液)』




・『駆除人(原液)』では一巻の頃に掲載していた。セーラの番外編を出さなかった。

だが、ないわけではない。できれば『駆除人(原液)』三巻に入れる予定だ。

二巻はキリのいいところまでにしたいので、かなり長くなる。


 そこで、ちょっと今書き直しているのだが、忘れていた設定なども掘り起こしていて面白かった。何より主人公の息子の話にもつながる。


 少しだが、ここに載せておく。よければ読んでみてほしい。


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 セーラ番外編



 セーラがクーベニアから馬車を乗り継いで、王都・アリスポートに着いたのは、ナオキと別れてから、六日後の朝だった。

 大きな城壁に囲まれた王都は、辺境にいたセーラを萎縮させた。門には早朝だというのに、多種多様な人種が並び王都に入っていく。馬車から降りた人の後について行き、城壁の門で冒険者カードを見せ、目的については「魔法学院に入学するため」と答えた。マフラーを巻き長袖を着て、肌のウロコを隠し、なるべく自分が忌まわしきゲッコー族であることは隠すことにした。

 門を通って、セーラは固まってしまった。人の多さ。城下町の家々。飛び交う言語。見たことのない食べ物。すべてが今まで見てきたものとは違い、あらゆるものが過剰に見えた。セーラは一度頷き、しっかりと石畳の道を歩き始めた。

「ナオキ様なら、どうするか?」

自分の元主人ならどうするかを考えることで、セーラは冷静になれた。自分の常識が通じない土地だが、常識の外側にいるナオキは「へーすごいね」くらいのリアクションしかしないだろう。

二年後には、その隣にいるのだから、いちいち驚いてなどいられない。そもそも七年かかると言われている魔法学院を二年で卒業しようとしているのだ。一般常識など頭のなかから排除しなくてはいけない。田舎者であるとか、自分の種族についての迫害や羞恥心など、どうでも良くなり、自分は手段を選ばず、目的を達成すると心に誓った。

「手段なんか選んでいたら、置いていかれる」

 セーラは、人に道を聞きながら、魔法学院の場所を聞いた。

 魔法学院は、王都の東側にあり、信じられないくらい大きな建物だった。どのように建設されるとこれほどまで高い建造物を建てられるのだろう、と驚いてしまった。

「驚いてる場合じゃなかった」

 セーラは、学院の門で入学したい旨と、アイルから預かった推薦状を差し出した。門にいた門兵は、外の枯れ葉を掃いている年老いた清掃員に声をかけ、セーラを案内してくれるように頼んだ。

 この時点で、セーラは鑑定スキルを使用し、清掃員が学院の校長の称号を持っていること、また、レベルが50を超えていることなどを見ていた。

「お嬢さんはどこから来なすった?」

 案内する校長が気軽にセーラに話しかけてきた。

「クーベニアです」

「ほう、クーベニアか。それはまた随分遠いところから来なすったねぇ。王都には慣れたかい?」

「いえ、今日来たばかりですので」

「そうか、今日来てすぐに来るとは、何か急いでいるのかな?」

「ええ、この学院を二年で卒業するつもりです」

「二年! それはまた、随分急ぐんだのぅ」

「可能でしょうか?」

「ん?二年で卒業することか? まぁ、出来なくはないかのぅ」

「本当ですか?」

 実際、どうすれば二年で卒業できるのか、セーラにはわからなかった。未だ単位というものすら知らない。教師をそもそも信用できるかどうかがあやしい。

「この学院にいる全員倒してしまえばいいんだ。そうすれば、この学院で学ぶことはないと卒業すれば良い」

「なるほど。ということは最終的に校長とも戦わないといけないんですね」

 そう言って、セーラが止まり、校長を見た。校長が振り返り、足を止めた。

「そうか……、君は『鑑定』持ちか。あまりスキルに頼ると足元を掬われるぞ」

「ええ、それはわかります。私の尊敬する人は誰よりも強いのに戦闘系のスキルはほとんど身につけていませんでしたから」

「ふむ、戦闘スキルに頼らず、魔物を倒していたか……」

「いえ、魔物は『倒す』ではなく『駆除する』ものらしいです」

「それはまた、随分と過激だな……」

 校長は黙って、額に手を当てて考え始めた。

「卒業した後、君はどうするつもりじゃ?」

「尊敬する人の隣に立ちます。必ず。手段を選ぶつもりはありません」

「憧憬か……その君が尊敬する人物はどういう人なんだ?」

 セーラは、少し考えた。どういう人と言われると言語化しにくい。

「常識に囚われず、自由気まま。常人には理解し難い人物かと」

「そんな人物でも尊敬していると?」

「ええ。あの方がいなければ、私は死んでました」

「その恩に報いたいと?」

「いえ、あの方はそんなことを望んでおられない」

「では、どうして隣になんか?」

「どうなるのか見たいんです! ナオキ様がこの先、何をするのか! ただそれだけです」

 セーラはにこやかに笑いながら、王都まで来る途中にずっと考えていたことを言った。

「それは、ただの……」

「そうです。ただの私のわがままです!」

「学院に入ればいろんなことを言われるかもしれないし二年で卒業しようとするなら、多くの敵を作ることになるだろう。もしかしたら、生死に関わるようなこともしなくてはいけないかもしれない。それでも……」

「ええ、それでも、です」

「面白い、入学を許可しよう!」

 廊下の真ん中でセーラは入学を許可された。

「あの試験はないんですか?」

「ああ、魔力が扱えるかどうか、くらいの試験だ。あんなものはどうでもいい。それよりも君が、君の尊敬する人がどうなるのか見たいように、ワシも君がこの学院でどうなるか見てみたい」

「いいんですか? 学院全体に毒をバラ撒くかもしれませんよ。もしかしたら、放火して逃げ出すかもしれない」

「舐めるなよ。腐ってもここはアリスフェイ王都の魔法学院だ。やれるもんなら、やってみな。ゲッコー族の小娘ごときに、この学院は潰されんよ」

 校長もまた、鑑定スキルを持っていた。

 

シュタッ。


 セーラは背中に悪寒が走った。後ろに誰かがいる。気配はしなかった。この廊下は、窓はあるものの、固く閉ざされているし、教室から出てくるのだとしても、ドアが開いたとは思えない。

「おや、先生。また、抜けてきたんですか?」

 校長が、セーラの後ろにいる人物に声をかける。

「いやぁ、呼び出しがあって。これから仕事ですよ」

 セーラが振り返ると、背の高い細身の中年男性が寝癖のついた髪を手櫛で梳かしていた。

「ハハハ、お忙しいことで」

「新入生ですか?」

「ええ、この学院に毒をバラ撒くそうです」

「ヤハハハハ! そりゃいい案だ! 僕の授業を受けると良い。いい毒の作り方を教えるよ」

 中年男性はセーラたちが来た方向に向かって去っていった。上を見ると、天井に穴が開いている。

「あの人は?」

「ベルベ先生。彼も戦闘系のスキルは身につけてないはずだったなぁ、確か」

 そう言うと、校長は歩き始めた。

 セーラは、とある教室で校長と別れた。教室にいた教師に「魔法は使えるか?」と聞かれ、水球を手の平の上で発生させるとそれだけで入学許可が出された。入学金の一部を払い、寮に案内された。案内した教師は、「あとは中で聞いて」とだけ言って去っていってしまった。授業中なのか休み中なのか、寮には誰もいない。誰も自分のことを知らない場所で最初は不安で何をどうすればいいかわからなかったが、すぐに不安がっている場合ではないと思い直した。

 耳を澄ますとドタドタと走る音が聞こえる。人の気配がする方へ行くと、マスマスカルが足の間をすり抜けていった。 

「あーまた逃げられた~」

そう言ったのはエプロン姿の中年女性だった。顔も身体も丸く手足は短い。可愛らしい体型なのに、威圧感は猛獣のようだった。セーラはじっとその中年女性を観察した。

「何見てんだい?」

と、睨まれてしまった。

「いえ、あ、すみません」

「新入生かい?」

「そうです」

「随分気が早いんだね。入学式は三日後だろ?」

「そう、なんですか?」

 セーラは尋問されているような気がして汗をかいた。

「この学校に何しに来たんだい?」

「それは………それは……」

「それは?」

「全員ぶっ倒してトップになるためです!」

「クッ……ハッハッハッハー!」

 エプロン姿の女性は大きな口を開けて笑った。途端にセーラは恥ずかしさで赤面し、顔が熱くなった。バカげたことを言っているのは百も承知。それでも譲れない。

「いやぁ、ごめんごめん! 久しぶりにそんな啖呵切る学生が現れたかと思って笑っちまったが…、あたしゃ、あんたを応援することにするよ! 食堂で料理長をやっているエリーだ。よろしく」

 そう言って、エリーはセーラに握手を求めた。

「セーラです。元奴隷です」

 セーラはエリーの手を握りながら、言った。

「元奴隷だって!?」

 エリーはわざわざ奴隷だったことを話すセーラに眉を顰めた。

「はい。私はナオキ様という元主人に出会い呪いを解いてもらったんです。魔法学院に来るときに奴隷印を消され解放されました。私はそれを誇りに思っています」

「変わった奴がいるもんだね」

 エリーは呆れたように言った。

「はい。非常に変わった方です。ただ、誰よりも尊敬しています」

「そうかい。じゃ、その人のためにもトップにならなきゃね」

「そうなんです。二年後に会う約束をしていて、それまでに学院を卒業しなくてはいけません」

「二年!? 随分急ぐんだね」

「ええ、そのくらいのことをしなくてはナオキ様の隣には立てませんから」

「ふ~ん、ま、頑張って」

「ありがとうございます!あの、エリーさん」

「ん? なんだい? 寮の部屋なら好きなところを使うといいよ。まだ、誰も来てないからね」

 階段を上がれば、学生たちの部屋だ。

「いや、マスマスカルを駆除してましたよね?」

「ああ、だいたい逃げられるんだ」

「あのぅ、罠とか仕掛けないんですか?」

「罠? あんな小さい魔物に落とし穴なんか仕掛けてもしょうがないだろ? シビレ罠を使うほどの魔物じゃないしね」

 クーベニア王国では、魔物に仕掛ける罠と言えば、落とし穴や高い魔道具を使ったシビレ罠くらいだと考えられていた。

「いや、そうじゃなくて、毒とか」

「毒?」

 毒もまた戦闘の補助や、権謀術数渦巻く貴族の世界で使うくらいにしか考えられていなかった。

「いえ、私の元主人が、駆除業者の方だったもので」

「駆除、業者?」

 エリーはポカン顔でセーラに尋ねた。

「虫系の魔物や、マスマスカルとかを駆除することを生業にしている人なんです」

「そんなので、生計が成り立つものなのかい?」

「ええ、この学院の学費も全て出してくれましたから」

「はぁ~……それで、マスマスカルのために毒の罠を仕掛けるって、どういう罠なんだい?」 

 セーラはナオキのやっていたことを思い出しながら、エリーに説明した。団子状のもので魔物の血などで臭いを出し、中身にエルフの毒薬を仕込む。うろ覚えだが確かそんな感じだったと思う。

「エルフの毒薬なんか、この学院にはないよ」

「だったら、眠り薬とか麻痺薬とかで、動きを止められれば、ナイフとかで仕留めることができるんじゃないですかね?」

「なるほどなかなかの材料がいるね。しかも時間がかかる。踏んづけてしまえば、一瞬だよ? それでもやるっていうなら止めないけど」

「やらせてください!」

 いつの間にか、セーラが進んでマスマスカルの駆除をすることになってしまった。それでもセーラは悪い気はしていなかった。ナオキと同じ事ができることも嬉しかったが、授業が始まってもいない期間に学院でやることが出来たからだ。

「わかった。応援するって言っちまったからね。協力できることはする。魔物の血や団子作る時の小麦粉なんかは私が用意してやるよ」

「ありがとうございます!」

 エリーに教えてもらい、セーラは植物学の授業で使うという温室に向かった。

 温室は鍵がかかっていて開いてなかった。温室の入り口に札がかけてあり、管理者にベルベとあった。校長と廊下を歩いている時にあった教師だ。これから仕事に行くとか言って去っていたが、教師の仕事だろうか。校長との話から学院にはいなさそうである。

 セーラはゲッコー族(ヤモリの獣人)の特性を活かし壁を上り入れる隙はないかと探ってみたが、通気口もしっかりと閉まっていた。仕方がないのでセーラは学院に隣接している森に行くことにした。一応、エリーに森に行ってもいいのかと聞くと、特に問題はないそうだ。

「ただ、魔物もいるからね。気をつけるんだよ」

 そう言ってエリーは軍手を渡してくれた。毒草を取りに行くというのに自分が軍手も持たずに行こうとしていることをセーラは恥じた。食堂から一番近い二階の部屋に行き、空いていたので勝手に自分の部屋と決めた。鞄の中身をクローゼットに押し込み空の鞄を持った。

 毒草採取に必要な物は軍手と鞄だけだろう。ナオキのようにアイテム袋ではないので、容量には限りがある。できるだけ多くの毒草を試し一番マスマスカルに効果的な毒草を探すことにする。

 セーラなりの準備で森に入ったが、どの草が毒草なのか眠り薬や麻痺薬に使う草やキノコなのか、一切知らなかった。地面に生えた草を引き抜き首を傾げながらとりあえず鞄に入れた。セーラは無闇に歩き続け、変わった草や木の実を採取した後にようやく気づいた。

「あ、そうか。『鑑定スキル』は何も人だけに使うものではないのか」

 すでに森に入って二時間は経っていた。鞄の中には大量の草だらけ。とりあえず採取した全ての草や木の実を鑑定してみる。ほぼアリスフェイ王国では良く見られる雑草であることがわかった。徒労に終わった毒草採取だったが、次からは『鑑定』してから採取しようと鞄の中の雑草と木の実を全て樹の根元に捨てていたら、背後に魔物の息遣いが聞こえてきた。

セーラはすぐに目の前の木に登り、やり過ごすことにした。靴を脱いで裸足になる。裸足ならば垂直でも二足歩行で登れる。はしたないのでナオキの前では見せなかったが、ゲッコー族の特性である。ただその後、筋肉痛にはなる。セーラの後ろにいたのはフィールドボアというイノシシの魔物だった。身体は大きく、木に体当たりでもされたらセーラは落ちるだろう。フィールドボアは捨てた木の実の臭いを嗅ぎながら、パクっと食べた。しばらく動きそうにない。

 魔法で攻撃してみようか。いや、そんなことをして暴れられたら木から叩き落とされ、痛い目に合いそうだ。骨折や怪我はもちろん、最悪死ぬ。相手は魔物なのだから。

 ただ、自分は二年で魔法学院を卒業しようとしているのだ、という思いがセーラの頭をかすめた。こんなことでナオキに顔向けできるだろうか。戦ってみることにした。使える魔法といえば、以前、奴隷だった頃に見た水球を出す魔法だけ。これだけしか使えないのに魔法学院に来てしまったという気持ちは押し込めて、水球でどうやればフィールドボアを倒せるかを考えた。

 セーラは考えながら木を垂直に歩きだした。子供の頃、母のセリーヌに「はしたないのでやめなさい」と何度も注意された癖が出た。セーラは真剣に考えると、壁や天井を歩く癖があった。

 そうしてセーラが考えて閃いたのは、フィールドボアを窒息させるというものだ。水球をフィールドボアの頭部に発生させて溺れさせてしまおうというのだ。今の魔法レベルで水球を飛ばしても威力がないことはわかる。だったら固定して使えばいいのではないか、と考えた結果だった。

 セーラは狙いを定めフガフガと荒い息を立てながら木の実を食べているフィールドボアの頭を狙った。水球はフィールドボアの鼻の辺りに展開したが、首を振っただけで散ってしまった。何糞と魔力を込めて少し大きめの水球を展開させてフィールドボアの鼻を狙った。

 フィールドボアは水球から逃げるように、横に移動。水球もそれに合わせて横に移動し、より大きくフィールドボアの頭部を覆うように展開させる。フィールドボアが無茶苦茶に暴れても、魔力を操作して、頭部から水球を離さなかった。木の上なのに手は自由だったのが良かったのか、魔力操作も難なく出来た。

 三〇秒ほどでフィールドボアは動かなくなった。セーラにとって初めてたった一人で魔物を倒した瞬間だった。ナイフも何も持っていない。解体などできるはずもなく、持っていく力もなかった。

 仕方がないのでセーラは一旦学院に帰り、食堂でフィールドボアを倒したことをエリーに言った。半信半疑のエリーは、部下の料理人たちと一緒に森に行くと、溺れたフィールドボアが倒れていた。

「どうやって倒したんだい?」

「溺れさせてみました」

「溺れ……?」

 エリーは辺りを見回したが、水源はなかった。

「魔法かい?」

「ええ」

 セーラは水球を指から出して見せた。水球はずっとセーラの指の上に留まっていた。普通、魔法は行使すれば、消えてしまうものだが、一向に消える気配はない。

「あんた、ずっとそれをやっていられるのかい?」

「え? ええ魔力が切れなければ」

 セーラはどうしてそんなことをエリーが聞くのかわからなかった。

「なるほど、ただのお嬢さんじゃないってことか」

 エリーは頷きながら言った。魔力を一定量の割合で使い続けることは、大量に放出することより至難の業だ。地面にはフィールドボアが暴れた跡がある。ということは、暴れるフィールドボアに併せて水球を移動させたことになる。対象をロックオンし離さないというのは、ちょっと才能があるどころではない。

「天才か。なるほど、校長があんたを入学式前に学院に入れた理由がわかったよ」

「そう、なんですか?」

「ああ、それを人に使ったら、そいつは詠唱も出来ずにただ溺れるだけだ。あんたは先手を取るだけでいい。魔法使い殺しだね」

「でも、無詠唱や魔法陣とかで対処されたら、終わりですよ」

「無詠唱で魔法を放てる魔法使いなんか、上級生でも数人さ。魔法陣なんて校長でも扱えないさ。特殊な研究機関にいりゃ話は別だがね」

「そうなんですか。知りませんでした」

「あんたの元主人から、常識を習わなかったのかい?」

「ナオキ様は私より常識がありませんでしたから」

 エリーは口を開けたまま、一瞬記憶を飛ばそうとした。

「もうなんでもいいや。とにかく、このフィールドボアは解体しといていいんだね?」

「はい。お願いします」

「明日の朝食には出せるよ」

 エリーはそう言って、連れてきた部下たちと一緒にフィールドボアを持ち上げた。

「あんたは帰らないのかい? もうすぐ日が落ちるよ」

 その場に立ったままのセーラにエリーが声をかける。

「あ、ちょっとコツがわかったので毒草採ってから、帰ります」

「遅くならないようにね」

「はい」

 セーラはフィールドボアを担ぎ上げた料理人たちを見送った。

セーラは日が落ちる前まで、スイミン草という眠り薬の材料になる白い花とタマゴキノコという麻痺薬の材料になるタマゴのように白いキノコを採取し、寮に帰った。マスマスカルの罠作りは明日の朝にした。その日は食堂で、教師や用務員さんに混じって夕食を食べ、部屋に戻る。風呂もあるそうだが、現在壊れているという。

 エリーに天才と言われたが、ベッドに潜ったセーラは不安しかなかった。本当に二年で卒業できるのか。その程度で、ナオキの隣に立つ資格があるのだろうか。同室になる子はいい子だろうか。授業は難しくないだろうか。考えているうちに不安はどんどん膨らんでいった。

「そうだ。明日は図書館に行ってみよう」

 少しでも魔法の知識が欲しかった。なにより学費を出してくれたナオキの面子を潰すわけにはいかない。そうと決まれば早く寝なくては。

セーラの学院生活の初日はそんな風に更けていった。


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まだまだ序盤だが、こんな感じ。


『駆除人(原液)』


よろしくお願いします。

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